読書感想文その5「鬼平犯科帳」(五)


ここで第五巻の感想を書くなり。
取り上げるお話は、毎度悩みますが、「兇賊」と「鈍牛」の予定。


「兇賊」
  またもや鬼平様危機一髪のお話です。第四巻の「あばたの新助」でも登場した畜生働きの盗賊、網切の甚五郎が、ついに大仕掛けで鬼平様を襲うのです。この危機を救うためになぜか必死で働いてしまったのが、芋酒屋の親爺で、一人働きの盗人だった九平。九平と、芋酒屋「加賀や」は、「剣客商売」にも一度登場します。剣客商売は、ほんのチョイ役でしたが、こちらでは、たまたま、旅の帰りに甚五郎一味の計画を聞いてしまいます。それだけなら彼には関係なかったのですが、たまたま芋酒屋に立ち寄った鬼平様が、同じく店で一緒になった夜鷹に見せた人間味ある対応に感動し、勝手に鬼平のために一生懸命、甚五郎たちの企みを探りだします。本作の最後のシーンで、同心・沢田小平次が初登場(確か)。一刀流の使い手で、火盗改めNo.1の剣豪なのですよね。ヨメにいくなら、この沢田さんか、同心筆頭の酒井祐助さんだなぁ、あたし。


「鈍牛」
  そんで、こちらのお話では酒井さんの設定が、第一話からなぜか変わってたのね。第一話では、嫁と赤ちゃんがいたはずなのに、このお話では、鬼平に、「早く嫁をもらうのだな」とちょいとからかわれています。
  さて、このお話は、部下のやらかした大失態に対する平蔵の処置、火盗改めの長官というお役目への覚悟のほどが書かれています。「このお役目は善と悪の境目」と言われる火盗改めです。この後の話でも、盗賊と通じ、悪へと転落した部下の話が何度も出てきます。本作の場合は、冤罪です。手柄をあせった同心とその密偵が、火付け泥棒の罪を、ちょっと発達障害のある若者を犯人にしたてあげてしまう、というもの。この一件を、おかしいと感じた酒井さんが、長官に申し出て鬼平自らが再捜査にあたります。
  部下のミスをどう処理するか、上司としてどう責任を取るのか、現代の組織に生きる人々にも通じるものがあると思うのです。